123人が本棚に入れています
本棚に追加
「好きな女が寝てたら、フツー、キスしたくなるだろ」
「……え?」
言葉の意味を理解出来ないまま、ゆっくり振り返ると、雄介は背を向けたままだ。
自分より広く大きく、男らしい。そう感じたとたん、心臓がはね上がるほどバクバクしだした。
「ちょ、風呂入ってくるわ」
「え、ええっ! そそそ、それって、まさかっ」
「勘違いすんなよ、汗かいて気持ち悪りいんだっつうの!」
「……へ?」
「つうか、マジお前って……」
呆れたような、焦れたような声とともに雄介が振り向いた。
「うえっ!」
パチン、と額を弾かれた。まるで子供のいたずらを叱るような、そんな優しい痛みだ。
思わず額を押さえると、雄介は小さく笑って、風呂場へ行ってしまった。
「……え、っと……」
残された愛美は、崩れるようにソファへ座った。まだぼんやりした頭で、雄介の言葉を反芻した。
そして三度も繰り返して、やっと理解した。
「う、うわああああっ!」
これはある意味、告白だ。
思わず押さえた顔が熱くなり、心臓が体の中を走り出した。黙っていられなくて、叫びたくなる。
すべて繋がった。あの、雄介の部屋で交わした会話の意味も、初めてのキスも、雄介の気持ちの現れだったのだ。
「あは、あははは……」
本当に、鈍い。そして残念なことに少し悲観的だ。
自己嫌悪に陥りながら、痛み出した胸を押さえた。痛みは心地よく、そして何とも言えない温かさを持って、嬉しさに代わっていく。
この気持ちを今すぐ伝えなければ、きっと消えてしまうに違いない。
最初のコメントを投稿しよう!