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「がんばれ……!」
小さく自分を励ましてから、立ち上がって風呂場へ向かった。何も考えない、今はただ、雄介に伝えたい。
「ふかざワン!」
ノックもお伺いもなく、風呂場のドアを一気に開けた。
「うわっ!」
「私も好き、ふかざワンが大好きっ!」
思いのたけを叫んだ。狭くて気密性の高い浴室内に、残響が尾を引いて回る。
突然の叫びに驚いた雄介は、頭からシャワーを浴びたまま唖然としていた。
「いま、何て……」
「鈍くてごめん! やっと判ったよ、同類って言ったのも、あのキスの理由も、だから……」
そこまで言って、愛美ははたと気がついた。
目の前の雄介は、当然だが全裸だ。しかも、これ以上ないくらい驚いた顔をしている。
「ひ、ひゃあああ!」
まぬけな悲鳴を上げたとたん、雄介が手を伸ばし、愛美をつかまえた。ぐっと引き寄せられ、強く抱きしめられる。回された腕は強く、そして腕の中は熱かった。
「俺も、お前が好き……」
雄介が耳元で、安堵したようにため息を吐いた。
「つうかお前、鈍すぎて、ウケるわ」
「うっ、ご、ごめん」
「うん……でも良いや。良かった、何とも思われてないかと、思ってた」
穏やかな声が、シャワーの落ちるなかで響いた。
「去年の――一年の三学期、俺、初めてお前を見つけたんだ。一人で、音楽室で、寂しそうにピアノ弾いてた。確か、ショパンの雨だれ……あんなキレイなピアノ、初めて聴いた」
呟くような言葉に、愛美もその当時を回想した。
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