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転入してまだ数日のころだ。環境になじめず寂しかった想いを乗せて、あの曲を弾いた。それを雄介が見ていたなんて、思いもよらなかった。
「あん時、マジでガッコ辞めたかったけど、もうちょい頑張ろう、って思えた……正直、お前見つけて、何だか嬉しかった」
嬉しかった、という言葉が心に響いて、何ともいえないものがこみ上げる。目の前がうるんで、出しっぱなしのシャワーがきらきら輝いて見えた。
「……ふかざワン」
「それ、そろそろ止めねえ?」
「じゃあ、ゆう、すけ……?」
「ああ、それが良い」
「雄介……」
そっと、雄介の背中に手を回す。触れた熱さにドキドキしながら、彼の肩に頬を預けた。
「迷ってた。前に、キスされたとき、謝られたから……きっとただ、魔がさしただけなんだろうって、思いこんでた」
「ああ、あれはお前が、ずっと目開けてたから」
「え?」
「だからきっとお前、嫌だったんだろうな、って、思ってた」
バツの悪そうな雄介に、愛美はつい笑った。
「だって、ビックリしたもん」
「そっか、悪い」
「ううん」
回された腕がゆるみ、少しだけ体が離れた。鼻の先が触れあうほど近くで、目を赤くした雄介が見つめてきた、
「も一回、していい?」
「うん」
「つうか、その前に……顔、拭いていい? 目、痛え」
「え、あっ!」
マヌケな声を上げながら、慌てて離れた。
雄介がべちゃ濡れで、しかも全裸という事実をすっかり忘れていた。
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