三月

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   ◆ 「――愛美、愛美」  遠くで誰かに呼ばれた気がして、薄く瞼を開けた。 「まぶし……」  剥き出しの蛍光灯が目に染みた。つい目をつぶると、今度はノイズのような耳鳴りがした。耳が爆音にやられてしまったようだ。  誰かが傍にいるのを感じて再び目を開けると、有希の心配そうな顔が飛び込んで来た。 「気がついた? 良かった、このまま起きなかったらどうしようかと思ったあ」 「有希……あれ、何で?」 「愛美、どっかのデブ男に潰されちゃったんだよ」 「潰され、た……?」  愛美は記憶と現状を繋げようと、もやのかかった頭を懸命に働かせた。  今夜、有希と一緒に初めてライブハウスへ来た。  単純に興味があった。知らない世界を、音楽を知りたかった。ただ、ラストまではいられない。家の門限に間に合うように、有希のお目当てのアフロバンドを観たら帰るつもりだった。それなのに、次に出番だった彼らが最初の音を出した瞬間、動けなくなった。むしろ前へ出てしまい、ダイブの下敷きになった。  あの、撃ち抜かれたような強烈なインパクトは何だったんだろう。今も強く心に残っている。  疼く頭を押さえながら考えていると、有希の向こう側から男が顔を見せた。 「大丈夫か? ごめんな、俺らの客、荒っぽくって」  すまなそうに眉を寄せたのは、あのギターボーカルだ。
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