三月

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 勝手にダイブして来た男が悪いのだから、別に彼が謝らなくても良いのだが、何とも申し訳なさそうな顔をしている。愛美も何だかバツが悪くなり、有希の手を借りてゆっくり起き上がった。 「いたた……」 「やっぱ、頭打ったみたいだな。冷やしたほうが良い、タンコブになってるかも」 「そうだね。愛美、痛む?」 「ううん、大丈夫……ありがと」  彼が差し出した濡れタオルを、有希が受け取って後頭部に当ててくれた。 「あ、マジ腫れてる。病院、行く?」 「ううん、こんなの、すぐ治るよ」  有希が支えてくれているタオルに手を伸ばし、自分で当て直した。本当に腫れている。タンコブを作ったのは何年ぶりだろうと思いながら、愛美は部屋の中をゆっくり見回した。  殺風景で、自分の六畳の部屋よりも少し広い。室内はくすみ、天井も染みだらけで、誰かがふざけてやったのか、半分ほどオレンジに塗られている。  壁にはあちこちに、今まで出演してきたバンドが残したと思われる落書きがあった。
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