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高鳴る鼓動を押さえようと静かに深呼吸をしてから、前に進むための言葉を紡ぐ。
―話したいことがあります。都合のいい日を教えて頂けますか。
他人行儀で簡潔に纏められたメールを母の元へと送信すると、唐突に不安感に襲われた。
母に会うのが怖い。何を言われるのか、どれだけ傷つくことになるのか…。
自分の意志を突き通すことが、どれだけ勇気のいることなのか。
眩しい朝日が窓辺から差し込んで僕の頬に光の筋を描いた時に、突然一通のメールを知らせる通知が点滅した。
…雨谷、だった。
何故こんな時間に?と不思議に思いながらも、雨谷から連絡が来たことに嬉しさを感じている自分がいる。
―待ってる。
彼から送られたたった一言の言葉は、ぼんやりと光る画面の上ではっきりと浮かび上がって見えた。
母からメールの返信が来たのは二日後のこと。
約二ヶ月振りに連絡したのにも関わらず、事務的で素っ気ない返答だった。
僕の存在が母にとって誇れるものではなくなってしまったから、失望したのだろうか。一度も反抗しなかった子供が、母の意にそぐわない態度を取ったから。
だから、もう不必要な存在だと諦めたのか。
雨谷のメールには、返信をすることが出来なかった。
何という言葉を彼に送ればいいのか分からなくて、色々な感情がごちゃ混ぜになってしまって…、結局宛先だけ埋まっているメールの本文は真っ白なまま。
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