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「小雨に変わっちゃったね。さっきまで雪だったのに」
カフェの入り口には翔が待ってくれていて、僕が泣きそうな顔をしてやってくるなり「頑張ったね」と優しく言ってくれた。
店内にいる母と翔の視線が一瞬ばっちり合って母が驚愕の表情を浮かべたのが分かったけれど、翔は頭を小さく下げただけだった。
「話さなくてよかったの?」
ポツポツと傘に落ちる雨の音を聞きながら翔にそう尋ねる。
「うん、まだ今はやめといた方がいいかなーって。もう少し時間が経ったら会いに行こうかな」
僕は「そっか」と呟くと掌を傘の外に翳した。
冷たくて、綺麗な雨粒。それが落下してきては掌を濡らしていく。
「…雨って、こんな色だっけ」
いいや、違う。
僕の知る雨は、もっと淀んだ灰色だった。こんなに透き通った美しいものではなかった。
「樹…さ。俺これからちょっと用事あるんだけど、すぐ終わるから近くで待ってて貰ってもいい?」
翔は申し訳なさそうな口調で言うと、鞄の中から携帯を取り出す。
ああ、誰かと約束してるのか。ならゆっくりしてくればいいのに、と思いつつも「うん」と頷いた。
「別に急がなくていいのに。何なら、先に帰ってるから」
「―駄目!ほんとにすぐ終わるから、近くで待ってて?」
有無を言わせぬ口調でそう言われ、僕はその態度を不思議に思いながらも首を大きく縦に振った。
「じゃ、終わったら連絡するから…。寒いから風邪ひかないように室内にいなよ?」
「分かってるって」
これじゃどっちが兄で弟か分からないな、と苦笑いしながら翔を見送る。
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