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室内にいなよ、と言われたものの降りしきる雨があまりに綺麗で、僕はその美しさに思いを馳せていた。
あの時みたいに、身体中が水浸しになることはない。キラキラ光る雨の粒は、傘を滴り落ちて世界を彩っている。
何となく思うがままに足を進め、僕の足は小さな公園の前で止まった。
鉄棒とブランコが寂しそうに肩を並べている横には、紅梅色の梅の花がちょこんと実る立派な大木があった。
空気は芯から冷え切っていて冬そのものだけれど、季節は確実に春に変わりつつあることに気がつく。
ぽかぽかと暖かい春の空気が吹いて、心から笑える未来がきっとやってくる。
もう僕は愛を求めなくていい。母に愛されなくていい。
僕は僕のままでもちゃんと価値があるんだ。
…雨の雫が地面に落ちる。
心が、苦しくなる。大切な存在が頭に浮かび、感情が溢れた。
「…会いたい」
雨谷に、会いたい。
今の自分ならば、彼に思いの丈を全て話せるはずだ。
大切で、掛け替えのない存在。
楽しいことも、苦しいことも、全部全部共有したい。ずっと一緒にいて、些細なことで笑いあったり喧嘩したり。
特別なものは何もいらないから、ただ隣にいてほしい。
僕は彼のことが、好きだ。
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