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「ちょっとー、雨谷くん。物思いに耽るのはいいけどミスしすぎ。今は仕事中なんだから、ちゃんとしてよね」
俺は散乱したガラスの破片を箒でかき集めながら「…申し訳ないです」と消え入りそうな声で言った。
「もうここはいいから注文取ってきて?今日は忙しいんだから」
「はい。…ほんと、すみません」
気を入れ直そうと思ったものの、その後もミスを連発してしまい、俺の調子は最悪だった。
ガラスは何枚も割るわ、オーダーミスはするわ、クレームはつけられるわ…。
いっそのことクビにしてくんねえかな、と思うくらいに精神がズタズタになる出来事が続けざまに起こり、自宅に戻った俺は盛大な溜め息をつく。
「もうだめだ…頭がごちゃごちゃで気持ちわりい…」
多田への恋心を自覚してしまった俺は、彼に思いを伝えるべきなのか何日間も思い悩んだ。
その割に、結論は未だに出ていない。
季節は冬から春へと移り変わろうとしているのに、俺の気持ちは一カ所に停滞したまま。花宮から相変わらず連絡はないし、勿論多田からの連絡もない。
―このまま大学辞めたりしないよな?
不安になった俺はベッドに潜り込んだまま意味もなく受信メールの確認をする。
「来てない…来てるわけねえんだよな…」
これじゃ完全に恋する乙女だ。
来ない連絡を待つくらいなら、こちらから連絡をすればいい。それなのに、襲いかかる恐怖心が真っ白なメールの本文を真っ白なままにする。
俺は多田が抱えてるものを受け止めることが出来るのだろうか?
多田の側にいる資格があるんだろうか。
答えの出ない疑問がぐるぐると頭の中で回っては俺を苦しめる。
「会いたい…」
恋に溺れきった俺の口から出てくる言葉は多田に対してのものばかり。
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