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こほん、と小さく咳払いをすると白い吐息が空気中に吐き出される。
朝方の晴天が嘘のように冷たい雨がポツポツと上空から落下してきて、それは傘に当たっては地面に跳ね返る。
つい先程までは雪が降っていたのに、ほんの数十分前からしとしと降りの雨へと変化した。
マフラーに手袋、ニット帽で完全防備をしてきたのに体がぶるぶると震える。
これでほんとに春が来んのか?と疑いたくなるくらいには寒い。寒すぎる。
「―雫月!」
携帯の画面から目を離すと、やけに目立つ黄色の傘を持った花宮がこちらにやってくる所だった。
彼は履いている黒いブーツを俺の前で止めると「久しぶり」と言った。
数ヶ月振りに目にする花宮の姿は、やはり多田とそっくりで。けれど、眼孔に宿る意志の強い光も耳元に煌めく幾つものピアスも、多田とは違っている。
「…久しぶり。元気だったか?」
花宮に対しての申し訳なさが浮かぶ。
しなければならない告白の返事のことを考えると、どういう顔をして話したらいいのか分からない。
せっかく抱いてくれた好意に、俺は応えることができないから。
同じ容姿をしていたとしても俺が好きなのは多田で、花宮じゃない。残酷なことのように思えるけど、自分の感情に抗うことは無理なんだ。
…だから今日、花宮には俺の気持ちを述べなくてはいけない。
「元気元気。雫月こそ顔色よくないけど大丈夫?…とりあえず、さ。超寒いし、あったかい場所に移動しない?」
俺は「おう」と答えると歩き出した花宮のあとを着いていく。
胸に渦巻く申し訳なさは、ますます蓄積されていくばかりだ。
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