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「大学は?もう終わったの?」
「ああ。テストが終わって休みに入ったんだ。だから今はバイト三昧」
俺はほろ苦いコーヒーを口にしながら花宮に焦点を合わせる。
「実家は帰らなくていいの…?」
「帰ろうと思えばすぐに帰れる距離だから、いいかなと思っちまって…」
花宮は「心配してるだろうから帰った方がいいよ?」と言いながら俺をじっと見つめた。
多田のことを切り出したい。
だけど、何とも言えない複雑な雰囲気がその邪魔をする。
雨の音に神経を傾けてはコーヒーに口をつけ、言葉を切り出そうと意気込む。
「…さっき、母さんに会ったよ」
「なあ」と口しようとした瞬間、花宮が一足早く話を切り出した。
「会ったって言っても、顔をちらっと見た程度だけど。号泣して顔が真っ赤で、俺を見るなり一瞬だけ怯えた表情を浮かべてた。依存してた樹に突き放されて、これからどうやって生きていくんだろうね」
「…突き放した?」
「前に進む為には母さんと向き合わなきゃいけないから、って。母さんに愛されなくても僕は僕だからって、さ。強いよ、樹は。ずっと縛られてたものから解放されるのは相当勇気がいるはずなのに」
いつの間に多田は、強くなったんだろう。
俺が知らないほんの数ヶ月の間に、彼は成長していたのか。
「樹がライブハウスに来たときさ、すっごい高熱で俺を見るなりぶっ倒れちゃって」
「-え?」
「一週間くらいで熱は下がったけど、なーんか他人行儀だし浮かない顔をしてた。何があったかは分からなかったけど、樹の中で葛藤が起きてるんだろうってことは分かった。…自分を壊していいのか、っていう葛藤が」
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