love【愛】

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「…ごめん」 「何で謝るの?雫月は何も悪いことしてないのに」 「花宮の気持ちに答えられなくて、ごめんな…」 謝罪の言葉を口にすると、あまりの申し訳ない気持ちに胸が苦しくなった。 ―ごめん、花宮。気持ちを蔑ろにして、傷つけてごめん… 「雫月は樹にとっての雨なんじゃないかな。俺達の名前の由来って『大地』と『空』なんだけどね、雨は空から降ってきて地面に染み込むでしょ?」 「…ああ」 「俺は『空』だから雫月と一瞬しかいられなかったけど、樹は『大地』だから雫月とずっと一緒にいられる。大地に染み込んだ雨粒は、永遠に樹木の成長を支えていくんだよ」 雲間から落ちてきた雫は一定の速度を保ちながら舞い落ちて、優しく緑の大地に溶けていく。 ぴちゃん、という優しい音が聞こえてくる。  花宮は「でしょ」と小さく呟くと、ポケットから携帯を取り出した。 「―あ、樹?今どこにいる?…駅前の公園?風邪ひくから室内にいなよ、って言ったじゃん。…いや、怒ってないってば。うん、うん…。動かないでそのままそこにいて?すぐに行くから」 電話の相手が多田だということはすぐに分かった。 受話口から聞こえる微かな多田の声は、俺の鼓動を早まらせる。 「…駅前の公園にいるみたいだから。…行ってきて?」 「…でも、」 「俺のことなんて気にしなくていいから早く行ってよ。これからも樹を包み込んであげて。泣かせたら、俺が怒るからね」 花宮の瞳からは今にも涙が溢れそうだった。 黄金の輝きを宿す星屑が、キラキラと光った。
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