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走る。走る。
雨粒を掻き分けて、手を先に伸ばして。
多田に会うために、足を進める。
傘が俺の盾になってくれているお陰で、あの時みたいにびしょ濡れになることはない。
美しい雨は目に入る世界全てを幻想的に彩って、俺の背中を後押ししてくれる。
会いたい。会いたい。好きだ。
一緒にいたい。幸せにしたい。温かな愛情を与えたい。
溢れる思いが胸の中で渋滞を起こしながら、俺の心拍数を更に高まらせる。
駅前の公園というだけあって、その小さな広場のような公園はすぐに目に飛び込んできた。
人っ子一人おらず、周りの喧騒から隔たれたそこに多田の姿はあった。
春の気配を暗示する梅の木の真横で、背筋をぴんと伸ばして佇んでいる。
「…雨谷君?」
俺の気配に気がついた多田の顔が、こちら側にくるりと向く。
端正な顔立ちが傘の影に隠されているせいで、表情がよく確認できない。
「…今まで多田の気持ちを考えないで、自分勝手なことばっかりして…何回も傷つけた。
合宿の時も、学祭の時も、この間だって…。多田が抱えてる莫大なものを受け止めきれるか分からなくて、結局救えなかった。
でも…、っ、でも俺は…多田のことが大切なんだ。多田を幸せにしたいし、ずっと一緒にいたい。…好きなんだ…」
傘がぶつかり合う感覚に続いて、多田に優しく抱き締められた。
その行為に驚いた俺は、思わず掌から傘を落としてしまう。
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