love【愛】

9/10
前へ
/181ページ
次へ
走る。走る。 雨粒を掻き分けて、手を先に伸ばして。 多田に会うために、足を進める。 傘が俺の盾になってくれているお陰で、あの時みたいにびしょ濡れになることはない。 美しい雨は目に入る世界全てを幻想的に彩って、俺の背中を後押ししてくれる。 会いたい。会いたい。好きだ。 一緒にいたい。幸せにしたい。温かな愛情を与えたい。 溢れる思いが胸の中で渋滞を起こしながら、俺の心拍数を更に高まらせる。 駅前の公園というだけあって、その小さな広場のような公園はすぐに目に飛び込んできた。 人っ子一人おらず、周りの喧騒から隔たれたそこに多田の姿はあった。 春の気配を暗示する梅の木の真横で、背筋をぴんと伸ばして佇んでいる。 「…雨谷君?」 俺の気配に気がついた多田の顔が、こちら側にくるりと向く。 端正な顔立ちが傘の影に隠されているせいで、表情がよく確認できない。  「…今まで多田の気持ちを考えないで、自分勝手なことばっかりして…何回も傷つけた。 合宿の時も、学祭の時も、この間だって…。多田が抱えてる莫大なものを受け止めきれるか分からなくて、結局救えなかった。 でも…、っ、でも俺は…多田のことが大切なんだ。多田を幸せにしたいし、ずっと一緒にいたい。…好きなんだ…」 傘がぶつかり合う感覚に続いて、多田に優しく抱き締められた。 その行為に驚いた俺は、思わず掌から傘を落としてしまう。
/181ページ

最初のコメントを投稿しよう!

186人が本棚に入れています
本棚に追加