桜を踏みしめる

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「遅くなりましたー」 怒涛の新歓勧誘から帰還した俺は開きかけていた文芸部の扉をゆっくりと開けた。 そして、一瞬にして動きを停止した。 「は、花宮…?」 何故か花宮が部室のソファーに座っているのが見えるような? …俺の見間違えか? 「やっほー雫月」 ひらひらと右手を振りながら困ったように笑う花宮は、部員達に取り込まれている。引退した筈の蓮華先輩が瞳をキラキラさせながら花宮の真横に佇んでいるこの状況に、俺は一体どう突っ込んだらいいのだろう。 「…なんでここに?」 俺がそう尋ねると、花宮は「樹の忘れ物を届けにね」と呟いた。 ーそういえば、樹はどこに行ったんだろう。 新入生の勧誘をしに二手に分かれたのはいいのだが、きっとどこかで捕まってんだろうな。あの容姿じゃ、行く先々で言い寄られてもしょうがない。 大学三年に進級した俺達は、サークルを統率する立場となった。 と、いうのも驚くべきことに俺は部長に選ばれたのだ。 文才はないし、皆を纏める能力がある訳でもないし、どう考えても樹の方が部長に適任だと思うんだけど。 俺を部長に指名した蓮華先輩曰わく、「多田君は途中入部だし、完璧すぎて近寄り難い所があるから」らしい。 「雨谷君の文章はすっごい繊細だしね。見かけによらず」とも言っていた。 文章の繊細さと部長の関係性はよく分からないが、とにもかくにも俺は部長に選任されたのだった。 それにしても「見かけによらず」って酷くねえか。 因みに副部長には樹が指名され、俺達二人が文芸部の未来を担っていると言っても過言ではない。
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