桜を踏みしめる

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「樹は?どこにいるの?」 「多分すぐ戻ってくんじゃねえか?新入生にでも絡まれてんだろ」 花宮は「大学生も大変なんだね」と言うと、「…あのさ」と続けた。 「校門の辺りをふらふらしてたら『多田君?』って声かけられてさ。『双子の弟です』って言ったらここまで連れてこられて。…えーっと、蓮華さん?に」 …ああ、その風景が目に浮かぶよ、と胸の中で呟きながら俺は蓮華先輩に目をやった。 「雨谷君!!!何でどうしてこんなに素晴らしい情報を教えてくれなかったの!?多田君が双子だなんて!こんなに美しい人間がこの世に存在してるなんて許されるの?」 後半は最早趣旨がズレ込んでいるが、蓮華先輩が激しく興奮していることはよく分かる。彼女は頬を上気させ、拳を握り締めて俺と花宮を交互に見つめてくる。 「あの、蓮華先輩?新入生もいるしもうちょっと落ち着きませんか?」 このままではせっかく見学に来てくれた新入生達が逃げかけない。 恐ろしいまでの蓮華先輩の勢いは、獲物を仕留める猛禽類にも劣らないと思う。 実際問題、入り口付近に座っている三人組の新入生が怯えた表情を浮かべている。 「…翔?」 どうしようかな、と考えている最中タイミングを見計らったかのように樹の声が聞こえてきて、俺の焦りは再骨頂に達する。 今この状況で樹が蓮華先輩の前に現れたら、彼女は一体どうなってしまうんだ、と。 「あ、樹」 樹の瞳孔が驚愕によって丸められ、それを見た花宮は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。 「何で翔がいるの?」 「えっ、俺メール送ったじゃん。『雫月ん家の鍵忘れてったから届けにいくよ』って」 「……忙しくて確認してなかった」 目の前で繰り広げられる合わせ鏡の様相をした双子の会話に、蓮華先輩も部員達も釘付けになっている。 彼等を知らない筈の新入生達も、樹と花宮に注目しているのが分かる。
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