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「そんなこったろうと思ったよ。『雫月の負担を減らしたい』って意気込んでたもんね?」
「ちょ…、ここで言わないでよ」
樹が焦ったように言葉を発した瞬間、蓮華先輩の右手がゆっくりと俺の肩を叩いた。
「……ねーえ、雨谷君?」
ヤバい。この声色は、興奮しきってテンションが突き抜けている時の声色だ。今まで飲み会の席や合宿の際に、彼女がこうなったのを記憶している。
「これは、どういうことかな?」
…うっわー、やっべえ。
花宮が「雫月ん家の鍵が~」とか言ってくれたお陰で間違いなく追及されるだろう。
はあ、どう対処しようか。
「お姉さんに分かりやすく全部話してごらん?」
有無を言わせぬ口調に、俺は「はは」と乾いた笑い声を零すことしか出来なくて、それを見た樹が俺の瞳をじっと見つめてきた。
「蓮華先輩。翔は僕の弟で、雨谷君とは三人で仲良くさせて貰ってるんですよ。…そうだよね?翔」
「あー、そうなんです。雫月が酔っ払ってる所を俺がたまたま介抱して、そこから知り合いになったって感じです」
「ほら、雫月も話してよ」という無言の圧力が花宮から発せられる。
「この二人の仰る通りです、はい」
肩に置かれた蓮華先輩の手の力がギリギリと強くなっていくことが恐怖すぎて、俺は彼女の方を向けないでいた。
「あああああああ!!!!!!!!正反対の双子!!!敬語じゃない多田君!!!バンドマンの片割れ!!!!この……っ、この興奮を誰に伝えればいいの!!!!!!!ねえ、雨谷君!!!」
首がもげるんじゃないかというくらい強い力で肩を揺すられたせいで、視界がぐらりと歪む。
「れ、蓮華先輩…、落ち着いてください」
樹の声も虚しく、彼女の暴走はヒートアップしていくばかりだ。
「―で、『雫月ん家の鍵』っていうのはどういうことかな?」
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