桜を踏みしめる

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「桜、ついてる」 樹の髪についていた花びらをそっと払うと、刹那にして真っ白な頬が林檎のような朱色に染まった。 ここ最近の樹は目に見えて感情が表にありありと出るから、見ているこっちが恥ずかしくなる。 多分いい変化なんだろうけど、俺としては気が気でない。優等生オーラを払拭した樹はフェロモンがダダ漏れで、悪い虫が集ってくる要素しかない。 こんなことを考えてると独占欲の塊のようで、本当は嫌なんだけどさ。 「顔が真っ赤だけど、どうしたんだい?多田君」 歩きながら本を読んでいる(相変わらず変人の)村本が新入生を引き連れてこちらにやって来る。 「君達があまりに人目を引くから。…ほら、あそこに歩いてる子も雨谷君達のことを見てる」 村本が指差した方向に顔を向けると、小柄で顔つきも中性的な新入生と思しき男性が俺達を見つめていた。 彼は俺の視線に気がつくと、怯えたように一瞬で顔を逸らす。別に悪いことをしていた訳じゃないんだから、堂々としていればいいのに。 柔らかそうな髪の毛といい、たれ目といい、子犬を彷彿とさせる。 「目立つ要因は俺じゃなくてこの双子だからな」 「いやいや、雨谷君も充分人の目を引きつける容姿だと思うよ。 …多田君とお似合いのカップルで羨ましい限りだ」 周りに聞こえない小さな声で囁かれ、内容を認識した瞬間に鼓動が高鳴る。 スルーしかけたけど、多田とつき合っていることを何故村本が知ってるんだ? 「どうして知ってるかって? そんなの、君達二人の表情を見れば一目瞭然だよ。ま、末永くお幸せにね」 村本は樹に何かを耳打ちしたかと思うと、ニヤリと口角を上げた。 その途端、樹の頬が再び真っ赤に染まる。 俺は桜の花びらを踏みしめると、静かにため息をついた。 「…前途多難だな、こりゃ」
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