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秘書は社長のため暫定的に置かれたものだとすれば、その後帰る場所などないということだ。
千博は不要の存在として、緩やかにクビを宣告されたのかもしれないのだ。
「よそ見をするな!時間がないぞ」
「はっ!すみません!」
そんな心配など無関係な社長は厳しかった。
「きみに来てもらったのはサボらせるためじゃない。さっさと内部監査をやって、それから従来の秘書の仕事。やることはいくらでもあるんだぞ」
「申し訳ありません」
たとえリストラされるとしても、今は給料をもらって仕事しているのだ。気の緩みは厳禁。
命じられた『内部監査』は現在のこの会社の経営が健全かどうか、改善の必要があるならどこを直すべきかなど今後の経営方針を決めるうえで欠かせない仕事だ。
YCシステムは二十四年前に前社長が立ち上げた社員四十五名の会社で、医薬品製造や自動車、製鉄など主に工場設備の制御システム作りとメンテナンスをおこなっている。
創業者の前社長は年齢・健康面で引退を考えた時に後継者がおらず、会社をそのまま残すためにM&Aを選んだという。
事業譲渡を聞かされた時はもちろんショックだったが、その前に社長が入院したりしてなんとなく気配は感じていた。会社がなくなるよりは随分といい決断、というのが社員の総意だ。
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