百舌鳥(MOZU)

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「組長とは兄弟なんだけど・・・本当の兄弟じゃないんですよ。だから組長に忠誠を誓う意味で対になるものを兄貴と一緒にって思って」 「へぇ・・・・なるほどね」 「憲さんの腕で組長への変わらぬ俺の気持ちを表現してほしいんです」 「それで足に組長の名を刻んだのかい?」 「まだ舎弟になる前のガキだったから・・・・でももう兄貴の下で働く決心はしたから。前は子供でだったし、堅気だったから、伝説の彫師の憲さんに頼むわけにはいかないし・・・・・。 それでクラブで知り合ったヤツに聞いて絵師のところに行ったんだけど」 「でも刺青とそう調和が取れねぇわけでもない。イイの選んだな」 「ありがとうございます」 彫師の憲さんは、この業界では有名な彫師だ。 会長の紹介でもなきゃ、自分のような若造のモノを彫ってくれるわけのない職人で、彼の美学に反するものは彫らない主義だ。なにをモチーフに彫りたいかを言ったらあとはお任せということになる。 「兄(あに)さんの方はどうするんだい?」 「忙しい躰だからそんなに時間は掛けられないし、俺からの捧げ物だからギリギリまで構図も知られたくないし・・・・」 「じゃあ大きなものは駄目だな」 「俺たちだけ分かればいい・・・・そんな場所に小さくても綺麗なものを」 「わかった。アンタ達の兄弟愛には感服したぜ。存分に腕を振るわしてもらう」 「憲さん、ありがとうございます」 憲さんはどう思っただろう。『兄弟愛』と言っていたけど、俺たちの愛には、その愛だけではない『禁断』の意味が含まれている。別に組では周知の事実だが、外の人にとったら、兄を抱いているなんて許されざることなのかもしれない。 『背中も出来上がるまで見せないでおこう。最終日に兄ちゃんを連れて行って一緒に仕上げてもらおうかな』 躰はつらいけど、心は天にも昇る気持ちだった。 やっと真の極道になれる。まぁ実力の方は伴っていないけど、とりあえず見た目だけでも極道らしくなるというものだ。 背中の方はなにを描くかは、憲さんに伝えてある。それがどのように形になるのか楽しみだ。 その日も見回りが終わって帰ったのは、もう日が変わった頃だった。 「どうだ?墨入れは・・・」 「順調だよ」 「仕事も少し他の奴に回していいぞ」 「いいよ、見回りだけだから」 「俺も入れた時は少し熱が出た。熱っぽくなったりしたら、ちゃんと休んでいいんだからな」 「うん、ありがと」
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