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楽屋で一人になった時、会長がすーっと寄ってきて耳打ちしてきた。
「大友が来月から東京に出てくる。桂斗にピッタリつけるからせいぜい取られないように気をつけろ」
「は?アンタが手腕を買って呼び寄せたんじゃねぇか。それにあの男はふつーにカミさんも娘もいるじゃねぇか。男にどうこうなんてしないだろ」
「この世界の男ってのはさ、どっちもイケるヤツが多いんだよ。気を付けてねぇと取り返しのつかないことになったりするもんだ」
「アンタ、俺たちに波風立てて面白がる寸法だろ。ホントに性格悪ぃな」
「そうね、性格悪ぃかもな」
「悪いけど、あの人をひとりになんかしねぇし、俺たちには深い信頼関係があるんだ。そうそう壊れるかよ」
いきり立っても色男は意に介さない。
それどころか、こちらを見て不敵な笑みを零しながら色っぽい声でまた耳打ちしてきた。
「関係が壊れたら俺が拾ってやるのにな・・・・」
親指をペロリと舐める仕草が妙に艶っぽくて背筋に冷たいものが走る。
「アンタ!なに言ってんの?桂斗はアンタの実の息子だろ!」
ついつい大声で怒鳴ると、人差し指を唇に当てて小さく『静かに』と言う。その顔の妖艶な事・・・・そこら辺のオンナよりずっと色気がある。
いくら婀娜(あだ)っぽくてもコイツは完全なる雄・・・・なのだ。
「へぇ、桂斗って呼んでんだ、兄貴の事・・・」
「いや・・・・組長」
「ふたりの時だけ名前で呼ぶんだな・・・・エロっ・・・・」
「アンタいったい何が言いたいんだって」
「二人の仲を壊して、おいしそうになってきた桂斗を俺の囲い者にしようかなって話」
「てめぇ・・・・」
「まぁ、せいぜい頑張れよ。俺の足元にも及ばないガキだから、勝敗は見えてるけど・・・・。あぁそうだ、宮嵜に道具の使い方レクチャーするように言っておいたから、じゃな」
艶男は地図を渡すと、手をひら突かせて笑いながら楽屋から出て行った。
「なんなんだ一体・・・・・」
雷文虎太郎という人物がまた分からなくなった。
俺を動揺させて、兄と喧嘩をさせて別れさせるつもりか?そうはいくかっ!
今まであの男の策略に勝手に乗せらされてきたが、絶対にヤツの使い勝手のいい手駒になるのは御免だ。
桂斗を奪うと言っておいて、二人で夜に使う道具のレクチャーを店の店長に頼んで見せる・・・・それって余裕で奪えるってことなんだろうか。
すでに雷文虎太郎の手の中に堕ちているような気がして、怖くて仕方ない。
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