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「雷文虎太郎が、また何か仕掛けてきそうで恐ろしいよ」
その夜、情けないほど怖くなって兄に相談した。
「今回の九州の件は完全に仕組まれてたけど、もう俺もそうやすやす乗らないし・・・」
「・・・・・・」
「なんか言われたか」
「まぁね・・・ホント、あの男(ひと)怖ぇ」
「確かに得体がしれないが・・・アイツとの距離を間違えると、ズタズタにされそうな殺気さえ感じる」
親子として暮らしてきたこの人でさえ恐ろしいと思うんだ。他人の俺は、もっと怖ぇ・・・・気に入らなくなったら殺されるかもしれない。
恐怖に寒気がしてふるっと震えた。温めて欲しい、寒くて仕方ない。
「ねぇ・・・・今すごく桂斗が欲しい・・・・ダメ」
後ろから彼の躰を抱きしめると耳まで赤くして身を少し硬くした。
でも、それは拒絶ではなく、言葉にしなくても許してくれているのがわかる。
「でも、墨入れで体力使ってるし・・・明日も行くんだよな」
「背中はまだ見ないで。でも、アンタの龍が、今、無性に見たい」
「・・・仕方ねぇな」
結局折れてくれる。自分の心もコントロールできない。そんなガキが、あの雷文虎太郎に勝てるんだろうか。本気でこの人を狙っているのだとしたら・・・・・・策に堕とされて奪われてしまいそうな気がする。
桂斗を欲しいなんて・・・・・アイツの悪い冗談で終わればいいけど。
結局、朝日が昇っても愛し続けてしまった。
手に入れてなお、完全に俺のモノになった気がしない。不安でおかしな猜疑心が勝手に膨らんでいく。
不器用でも、こんなにまっすぐな愛を注いでくれるこの人を疑ってどうする。
この人の愛は疑わなくても、無理やり犯されるかもしれないという不安は否めない。
「ああ、ひと時も離れたくない。見回りも辞めて、アンタのボディガードにしてくれ」
「理玖、どうした」
「不安で仕方ねぇンだよ。アンタは誰にも渡さない」
「当たり前だろ。俺は自分の身は自分で守れる。お前は自分に与えられたことをコツコツとこなせ。それが若頭への近道だ」
「わかってる、わかってるけど・・・・・・」
兄は抱き合いながら、結局不安がる弟を宥めたに過ぎない。成長がないガキのままだ。会長のたった一言でこんなに動揺して、こんなんじゃ若頭候補失格だろう。
「お前は着実に成長している。修行を積み重ねれば、お前は最強の極道になれる・・・・・俺は待っているから、そんなに焦る必要はない」
桂斗は髪を指で梳きながら優しく撫でる。
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