一月十一日*三粒目

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   「わかった。じゃあ行こか、藤棚」  「えっ……」  いいの? という気持ちが顔に出ていたに違いない。  小さく吹き出した光輝が、「でも」と付け足した。  「ちょっとだけやで。日が暮れるまでな」  「うん……!」  嬉しかった。って、結局は私がワガママを通しただけなんだけど。  まだ光輝と一緒にいられるんだっていう事実に、勝手に心が弾んだ。  バスに乗って十五分足らずで、けやき坂に着く。  いつものバス停で降りて、少しだけ坂道を上った。  公園の入り口から、短い階段を上がればすぐに目指す藤棚が見えた。  「うわあ、綺麗」  「そうやなあ」  私は吸い込まれるように藤棚の下へと入る。  薄紫色のグラデーションが、頭上に広がる。  小さい頃は垂れ下がる花がブドウに見えて、美味しそうなんて思ってたっけ。  品種とか、難しいことは今もわからない。  けれどこうして光輝と一緒に見られる藤の花は、特別に綺麗だった。 .
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