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「座る?」
「うん」
藤棚の下にある、正方形の大きなベンチに並んで座る。
傾いた太陽の色と藤の花の色が対照的だけど美しくて、額におさめて飾っておきたいくらいだ。
「来てみてよかったな。満開や」
「本当に綺麗だね。光輝と見られてよかった……」
けやき坂にはこんなに素敵な場所があるのに、そんなことも忘れていた。
藤の花。夕日。影を作る樹木。砂場のモグラ。小さなブランコ。隣に、光輝。
目に映るすべてを匂いまで全部、もう二度と忘れないように、必死に記憶に刻む。
「どうしたん、しみじみと」
「え? うん……ちょっとね」
「なんか変やな、今日の睦月」
笑いながらだけれど、そう言われるとぎくりとしてしまう。
そりゃ違うよ。今の私は中学二年生の私じゃない。
この後、たくさんの幸せをあなたからもらうことを知っている。
そしてそれを全部、失くしてしまうことも……。
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