一月九日*一粒目

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   東京駅は、不思議だ。 息をのむほど綺麗な建物なのに、ほとんどの人が足を止めずに先を急いでいる。  「あれっ、睦月(むつき)!?」  元気な声で呼びかけられて、振り返る。ぼうっと構内の天井を眺めていた私を呼び止めたのは、大学でよく一緒にいるメンバーの一人だった。  「偶然だねー! どこ行くの?」  「実家にちょっとね」  「ああ、睦月って大阪だっけ? それにしては関西弁出ないけど」  「大阪じゃなくて兵庫かな。ギリだけど」  「兵庫って神戸の?」  「そうそう。」  そっか、こっちの人にはその説明の方がわかりやすかったか。  でも地元を説明する時に神戸を使うのは、私にとってなんだかしっくりこない。  遊びに行くなら大阪に行く方が多かったし、あんまり神戸になじみもないし。  だからいつも「ギリギリ兵庫の、大阪の隣の市」みたいな変な説明をしてしまう。  まあ、聞いた相手もそこまで詳しく知りたいと思ってないだろうし。  だいたいが「何それー」なんて笑って終わりみたいな感じで。 .
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