一月九日*一粒目

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   「てか、なんで今? お正月に帰らなかったの?」  今日は一月九日。  冬休みが終わってすぐのこの時期に帰省するのは、確かに変だと思う。  彼女の疑問にちょっとだけ胸が痛む。  実際、両親からの催促をやんわりとかわしている後ろめたさからだ。  本当の理由をそのまま話すのは気が引けて、当たり障りない言葉を選んだ。  「うーん、なんだか面倒でさ」  「あーそっか。結構遠いもんねー」  なるほどー、なんて簡単に納得してくれる。素直でいい子だな。私とは大違い。  じゃあそろそろ行くね。そう言って切り上げようとした時、彼女はハッと何かに気づいたように言った。   「そっか、成人式だ! もうすぐだもんね。地元で出るんでしょー?」  「当たり。お母さんがもう着物仕立てちゃったからって強引に」  「ええーいいじゃん! 私なんて『レンタルで十分でしょ』だよ? 羨ましいなあ」  「あはは」  私にとってはそっちの方が羨ましい。  というよりできれば欠席したいくらいだった。今更言っても仕方ないけれど。 .
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