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バスに乗ってからさらに二十分後。
けやき坂2丁目南のバス停で降りると、小さな歩道から住宅街に入る。
登ってきた道を少しだけ下っていく、それだけなのにとても懐かしい気分になった。
街の中より何倍も空気がきれいに感じるこのエリアが、私が育った場所。
小学校三年生くらいから高校を卒業するまで、私の世界はほとんどここで完結していた。
『北野』の表札がかかった自宅は、二階建ての一軒家だ。
庭にはたくさんの花と緑。ガーデニングが趣味の母によるものだ。
中学生くらいの頃、犬を飼いたいってダダをこねたことがあった。でも庭がダメになるからって却下されたんだっけ。
インターホンを押して、「ただいま」と声をかける。
それだけで母は私だと気がついたんだろう、玄関から物音がして、ドアが開いた。
「おかえり。疲れたでしょう」
「ちょっとだけね」
「荷物置いたらお茶いれるわね。お父さんが休日出勤なのが残念だけど」
「相変わらず忙しいんだね」
「そうね。でもまあ、向こうにいた頃よりはマシだわ」
母が言う『向こう』は、東京のことを指す。
もともと両親は東京で暮らしていた。私が生まれたのもその時だ。
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