ゼロトン

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近ごろよく夢をみる。多種多様である。内的要因、外的要因、入り乱れている。思いあたること、思いもよらないこと。知ってる人や場所、知らない人や場所。さまざまな状況のなかに身を置く。 今日は、記憶に残っている中でも、もっとも古い夢を、認めておくことにする。 幼稚園から小学生にかけて、風邪をひき、熱にうなされたときにだけ、必ず見ていた夢。 その夢をみるきっかけは、当時、枕元に実際に置いてあった、目覚まし時計のチクタク音が起因していることはまちがいない。 ─ちっこかった俺が熱にうなされる。 起きているのか、眠っているのかさえわからずに、朦朧としているが、辺りは真っ暗だったから、浅瀬で眠っていたのだろう。 すると突然、いくつもの時計の盤面が、目の前にじわりと滲みあがる。そしてくにゃくにゃと、歪んでいくのだ。ひきだしの中で、のびくんが、タイムワープをしたときのように、時空がねじ曲がったかのように、文字盤が、グニャリと歪曲したり、捻れたりしながら、空中を浮遊する。そんな夢。 とくにたいしたオチもなく、いつのまにかフェードアウトしている。おそらく、そのまま深く眠ってしまうからだろう。 これが俺の記憶にあるなかでも、もっとも古い夢である。 成長するごとに、この夢はみなくなったが、あるとき、似たような光景を美術の教科書に見つけて、驚いたことがある。 それは、サルバドール・ダリの【記憶の固執】だ。 俺の夢は色つき音なし。 ダリの絵も、色つき音なし。 それなのに聞こえてくるものと、見えなくなるものがある。五感はあてにできない。 さてと、今夜は、どんな夢をみるのだろうか。みないのだろうか。 久しぶりにダリの夢をみたいけれど、あいにくこの部屋には、チクタク音がない。 それに、幼少期の記憶の中の夢を見たさに、わざと高熱にうなされるなんて、ねえ、なんだかちょっぴり超、現実。
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