ゼロトン

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旅にでた。ひさしぶりだ。 宿につく。女将に部屋へと案内される。 右手に太平洋。 左手に日本海。 たかい天井は草色。 ふかふかの床は空色。 「ここは無人島ですので、なにもおかまいできませんが、せいぜいおくつろぎください。」 ペコリともニコリともせず出ていった。 全室、おなじ眺望が売り。 大人気の宿だから、、というよりも、島で唯一の宿だから、いつも満室で、客が入れ替わり立ち替わり訪れるらしい。 実は俺も、18年間待って、やっとのおもいで宿泊できるのだ。つまり、18年前に予約したということ。 いまだに、何十年先まで、毎日、予約がはいっているという。たしかに、死ぬまえに見にこれてよかった、と思える、まさに奇跡的な絶景だ。 無人島だから、なにもないので、必要なものは自分で持参しなければならないのだが、皆一様に、手ぶらで、着の身着のまま、来ているらしい。 俺ももちろん、なにももってこなかった。 無人島に、いらぬものを持ち込んで、この自然の景観を壊すきっかけを、わずかでもつくるわけにはいかない。 (汚してはならない、、、) そういうきもちにさせられてしまう。それぐらい素晴らしい景色なのだ。 きっと、他の客も皆、同じきもちのはず。
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