ゼロトン

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ここは無人島なので、なにもないけれど、景色がいいので、ほとんどの客が、一日中、その景色を眺め続けている。 あまりの美しさに、皆、声がでないらしい。それだけではなく、足音ひとつ、くしゃみひとつも聞こえない。それだけ、皆、景色に見とれているのだとおもう。 無論、俺も、おんなじ。 ここは無人島なので、なにもないけれど、手つかずの自然がある。部屋で眺めてるだけではあきたらず、そこへ赴く客もいる。 ひとりひとりが、おもいおもいに、海の奥深くまでもぐったり、森の奥深くへ入っていったり、それぞれが、それぞれのしかたで、この島を満喫している。 ここは無人島なので、なにもない。 ほんとうになにもない。 18年もの長い間、待ったのだし、せっかくの旅なのだから、俺も、海や森を、もっと間近で見てみたいとおもう。部屋から見ているだけで、その美しさに、こんなにも感動するのだから、間近で見たら、この何倍もの感動を味わえるかもしれない。それでこそ旅の醍醐味。かなりの気分転換にもなるだろう。 さて、でかけよう。 ここは無人島なので、なにもあってはならない。 きっと、そんな、清々しい気分になるはずだ。他の客も。
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