花火が彩る夜に負けられない戦いへ

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 今年もその夜はやってきた。  昔からある小さな町の花火大会。決まって七月の終わりにあるそのお祭りは、川から花火を上げる。打ち上げられる花火の数はさほど多くなく、お盆ごろにある隣町の有名な花火大会に比べれば規模は小さい。それでも、このあたりに住む者にとっては大切な夏の風物詩で、毎年毎年みな楽しみにしていた。  そんな祭りの夕方、花火の時間までにはまだまだあるが、夜店も営業を始め、人通りも増えてきた路地を、彼女は大股で突き進む。その形相は祭りの浮かれた雰囲気とはかけ離れていて、彼女がかもし出すただならぬ様子に、誰もが自然と道を開ける。  そして彼女は、路地の端、少し入り組んだところにある、とある夜店の前に立った。  立地からあまり客も訪れないその夜店の店主は、ちらりと横目で彼女の姿を見るなりやれやれと溜息を吐く。 「椿(つばき)、お前は…………また性懲りもなく来たのか」  椿と呼ばれた彼女は、右の拳を真っすぐと突き出す。 「一回、お願いします」  彼女の右手には、小銭が握られていた。  あぁ、また今年もこの戦いの季節がやってきたのか。  ヨーヨー釣りの夜店の店主である彼は、けだるげな様子で、小銭と引き換えにこよりのついたW型の釣り針を椿へ手渡した。
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