花火が彩る夜に負けられない戦いへ

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 椿は毎年、この場所へとやってくる。毎年変わらずこの祭りの片隅に店を開く風変りな店主へ戦いを挑むために。 「どうしたんだ、今年は?そんなおめかしして」  今まではカジュアルな服装でやってきていた椿が、今年はレトロな雰囲気の紫陽花柄の浴衣に身を包んでいたので店主が思わず聞くと、水面に目を凝らしたまま彼女は答える。 「去年言ったじゃないですか。ヨーヨー釣りには浴衣だって。だから、形から入るのも大事かと思って祖母の浴衣を引っ張り出してきました」  折り畳み椅子に座る店主は呆れながら、そういえばそんなことも言ったかなぁと、しゃがみこんでいる椿を見下ろす。  形からといっても、ヨーヨー釣りならば去年までのTシャツの方がずっとやりやすいだろう。浴衣では袖が邪魔になる。  思った店主だったが、あえて言わなかった。日頃こういったお洒落とは無縁の世界で生きている椿のこんな姿を見るのも悪くないと思ったのだ。彼女の短い髪に飾られた花飾りが艶やかだった。  そんな店主の心中などわかるはずもなく、椿は必死にヨーヨーを見つめてている…………いや、見つめているのはヨーヨー本体ではない。そこからのびている糸ゴムの先にある輪っか部分だ。そこに釣り針をひっかけ、引っ張り上げる。単純ではあるが、簡単にはいかない。こよりが水にぬれては 強度が落ちる。水面に浮いている輪を狙わなければ。色とりどりの線で模様が描かれた白いヨーヨーに狙いを定めた椿だが、それに続く輪っかはゆらりゆらりと揺れ、水色のヨーヨーの影に見え隠れする。  それならばこっちからと位置を移動した椿だったが、まるでそんな彼女をからかうように輪っかは赤色のヨーヨーの裏へ隠れてしまう。
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