花火が彩る夜に負けられない戦いへ

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 輪っかを追い、しばらく水面をにらみ合いっこしていた椿だったが、気まぐれな動きに業を煮やし、思い切って勝負に出た。釣り針に輪っかをひっかけ、一気に引き上げる…………が、輪っかを深追いしたがためにぬれてしまったこよりは、水ヨーヨーの重みに耐えきれず、ぷつりとちぎれてしまう。落下した白いヨーヨーは水しぶきをあげた。 「相変わらず不器用だな、お前は」  口惜しさに身もだえる椿に、店主は苦笑いを浮かべながら声をかけた。  すると椿は店主をにらみつける。 「そんなこと自分でもわかってます!だから毎日家で自主トレまでしてるんです!」 「お前そんなことしてたのか!?その労力もっと他に使えよ!」 「こっちも必死なんですよ!!」 …………世界が変わっても、こいつだけは変わらないな…………  無駄に真っすぐというか、不器用な生き方というか、変わらない椿の姿に店主は思わず柔らかな笑みを浮かべた。  そんな時、椿の横で幼い歓声があがる。 「やったぁ!三つとれたよ!」  それは、椿よりも先にこの屋台へ来ていた先客の男の子で。端に赤い色のついたちぎれたこより片手に、三つの水ヨーヨーを誇らしげに掲げていた。 「おぉ!すごいじゃないか」  店主が大げさに驚くと、男の子は嬉しそうに笑う。  一方、椿は愕然とその男の子と、自分の手の中にあるちぎれたこよりを交互に見つめた。 「…………私、駄目かもしれないです…………」  あからさまにショックを受けている様子の椿に、仕方がないなぁと、店主はこっそり耳打ちをした。 「子供用にはちょっと強いこよりの釣り針を渡してるんだよ」  こよりの端の赤い色が子供用の目印だと店主はつぶやいたが、椿はそんなつぶやきを聞くことなく、勢いよく立ち上がった。 「それってずるくないですか!」 「はぁ!?」 「勝負は勝負です!子供も大人も関係ありません!!」   「大人げないなお前!!」  融通が利かないところも、椿は昔と変わらなかった。
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