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…………そろそろ花火があがる時間か…………
腕時計を見た店主は、次いで夜空を見上げた。
この祭りの花火は、人気の花火大会に比べれば数は少ない。だが、店主はここからのんびり眺めるここの花火が好きだった。それは幼いころから変わらない風景で。しかし…………
「この祭りも、変わったなぁ」
店主の突然のつぶやきに、本日何個目になるかわからないこよりを手にした椿が顔をあげる。
「なにがですか?」
椿は水ヨーヨーに夢中で、こちらの話など聞いていないと思った店主は、少し驚きながらも答える。
「並ぶ店だよ。お前、ここ最近、金魚すくいやりんご飴屋がなくなったの気が付いたか?」
「え?」
店主に言われ顔をあげた椿は、通りに並ぶ夜店を見た。確かに、見渡す限り金魚すくいやりんご飴の文字は見えない。
「本当だ…………」
「他所からいろんな病気が入って来ただろ?その病気で金魚やりんごがかなり被害にあったんだよ。それで値段が高騰してな」
金魚やりんごだけではない。外部との交流のおかげで急激な発展をしている反面、様々な場所にそのしわ寄せは現れている。
「人間ってさ、なくなって初めてその大切さに気が付くんだよな。金魚すくいだってりんご飴屋だって、今まではあるのが当たり前で。それがなくなったとたん寂しくなる。普通にある時に気が付けばいいのに、そういう時は全然気が付かない。めんどくさい生き物だよな」
「…………私も、貴方が去った後に気が付きました。もっと教わっておけばよかったって…………」
うつむき震える声でつぶやいた椿は、勢いよく顔を上げると、真っすぐ店主を見つめながら言う。
「この店はまだ辞めませんよね!勝負に勝つ前に辞められたら困ります!!」
あの日からまるで変わらない椿が、なんとなく嬉しかった。
「…………あぁ、この祭りがある限り続けるつもりだから」
水ヨーヨーだって他の店だって…………いや、この祭りの主役である花火だって、いつ突然なくなるかわからない。でも、それは言わなかった。
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