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昼間だというのに薄暗い天気の中、沢山の墓が並ぶ墓地で、親子3人が銀色の十字墓の前で泣いていた。
年の頃は5、6歳と思しき幼い少年と少女は泣き叫んでおり、母親は そんな子供達を抱いて、声も出さず静かに涙を流している。
彼女達は大切な家族を喪(うしな)った――殺されたのだ。
子供達にとって大好きな父親を。
母親にとって愛する夫を。
「ねえママ……パパは、どうして死んじゃったの? こんど、しごとが お休みの日に、あそんでくれるって、パパやくそくしてくれたんだよ? それなのに、何で死んじゃったの?」
少年が泣きながら母親に問いかける。
それに対し、母親は無言で首を横に振ることしか出来ない。
彼女は彼女で夫を亡くした悲しみでいっぱいであり、子供達を慰めたり元気づけたりする余裕などないのだ。
一方 少女は「パパに会いたい、パパに会いたい」と、壊れたレコーダーのように繰り返している。
悲しみに暮れる一家に同調するかのように、灰色の空が泣き出した。
空の涙は氷の如く冷たい雨となり、容赦なく地上に降り注ぐ。
それでも一家は雨を凌ぐ事もせず、家族の死を悼(いた)み続けていた。
「………………」
そんな一家の様子を1人の少年が、傘も差さずに墓地の入口から無表情で見つめている。
漆黒のコートを身に纏い、血色の瞳を持つ少年は吐息を漏らし、墓地の入口に貼られている手配書に視線を移す。
手配書の写真に写っているのは、少年と同じく黒い髪の男だった。
鋭い眼光を湛えた目。そのうちの右目は長い前髪に隠されているが、それでも尚 男の纏う気迫は抑えられていない。
カーキ色の軍服と軍帽を着用しており、軍人であることは誰の目から見ても明らかだ。
「……無限弾薬のルベライト、か……」
手配書に書かれている指名手配犯の名を呟いた少年は顔を伏せると、静かに その場を立ち去った――
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