レベル1:私は無敵に素敵な勇者になる!!

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 ふと足音で目が覚めた。お父様だろうか?私は身構え息を殺しじっと前を見据えた。だが、やってきたのはお父様ではなかった。 「お母様!?」 「ありす、どうしてそのまま旅立たなかったの?お父様にいえばこうなることはわかっていた筈なのに…。」 私ははっとして思わず下を向いてしまった。「窮鼠猫を噛む」ということわざにもあるように、普段弱気なお父様でも追い詰められればこんな強行手段をとってしまうものだという事に今気づいた。私はなんて無知で世間知らずなのだろう。やはりこんな私には勇者なんて無理なのだろうか。お父様の言い付け通りに結婚するのがいいのだろうか。そんな事を考えていると、暫く黙って私を見ていたお母様が口を開いた。 「ありす、これが最後のチャンスですよ。」 「え?」 お母様はそう言うと、袖下から鍵を取り出した。それを牢の鍵穴に差し込むと私を外へと出し、私の代わりの人形をベッドの上に置き布団をかけた。これならばはたからみたら、さも私が布団の中にいるかのようだ。お母様は急いで牢から出ると私にこう言った。「あなたの職業変更届けを王城に出してきました。これで今からあなたは勇者です」と。そして、王様から託されたであろう装備一式を手渡された私は、屋敷の秘密通路から外へと出た。そこは小高い丘の上でちょうど気持ちいい風が吹いていた。 「うん、旅立ちにはちょうどいい天気ね。」 「お母様……。」 「なんて顔してるの?あなたは自由になるんでしょう。さぁ、いってらっしゃい。」 お母様は明るく照らす太陽のようにまばゆいばかりの表情を私に向けてくれた。私はそんなお母様を悲しませないよう顔を上げ笑顔で「行ってきます」と、大きな声でそう言うと背中を向けて歩き出した。  私は誓う、自由をくれたお母様の為にも私自身の為にも、きっと勇者に………いいえ、きっと「無敵に素敵な勇者になる」と、そう誓った。どこまでも晴れ渡るあの蒼い空のように。
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