願わくは彼とともに

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数日後…私は彼がこの世界から旅立ったと父から聞かされた。 だから、諦めて忘れろと…それが私のためだと。 しかし、私はもう忘れることは出来なかった。 筆談でも良かったから、私は彼と一緒に暮らしても構わなかった。 もちろん、人が立ち入らぬ秘境に引きこもらねばならなかったけど。 バベソレンコ伝染病駆除のため彼の故郷が炎魔法で浄化されたあの日。 私は父に軟禁され、彼と運命を共にすることは出来なかった。 父にとっては私はかけがえのない生命だが、私にとっては彼がかけがえのない生命である。 文通だけの遠距離恋愛だったが…気弱で頼りなかったが…私は彼の誠実さに癒されていた。 私はこれから大切な人を失った事実とともに、残りの長い時間を生かされるのか。 もはや、何にも心を動かされず…死んだ者を想うは愚かと罵られながら愛を貫くことすら出来ないのか。 本来、誰を想うのは自由なはずなのに…自分に迷惑がかかる行為は必死で止める。 もちろん逆もしかりなのだけど…それならあなたのためだとか恩着せがましいのはやめてほしいものだ。 伝染病より、よほど恐ろしい人間の心だ。 人間は世界最高の存在であるはずが、最高たる誇りや尊厳ですら持ち合わせていない。 人間とは、誰にも何にも勝ててはいない…人間が人間である限り。 私は誰に勝つことも出来ず…彼を守れなかった。 そう思うと喪失感だけが残る。 私が失ったものはいつしか私の身体を駆け巡り…私から『声』を奪った。 失って、私は嬉しくなった。 これで…彼と一緒にいられる。 言の葉を持たぬ彼の声が私と重なる。 奇妙な一体感が私を包んだ。
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