迷える言の葉

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人間を人間たらしめるのは、法と秩序と言の葉ということでしょうか? 言葉が通じねば筆談も可能でしょうが、多くの者は暴力に堕ちるしかなくなりました…伝染病なんですからね。 暴力を使うにも、徒党を組もうにも仲間と連携が取れない…暴力ですらすでに意味は無くなったようです。 この町から『人間』はいなくなりました。 あと1時間で伝染病駆除のために感染者ごとこの町は油を撒かれ…炎の攻撃魔法が放たれるでしょう。 そして、世界は守られるというわけです…おそらくは隠蔽された権力者の不祥事から…社会の秩序も。 人として生きられなくなったこの町の人間はすでに『死に』ました…僕もすでに『死んだ』も同然でしょう。 僕が『死んだ』のはあなたへ想いを伝えられなくなったから。 たとえ万が一奇跡が起こってこの町から逃げ延びても、僕はあなたに『愛している』と伝えることが出来ない。 まともな言の葉を持たない人間など、世間的には狂人と一緒でしょう…僕はあなたと暮らすことさえもう出来ない。 だから、僕のことはもう忘れてあなたは未来を掴んで下さい。 人間はしょせん知性を持たない病原体のかけらにすら、打ち克つ前に己の誇りと尊厳すら投げ出してしまう。 人間など、己を信じたくとも信じることなど出来ない生き物です。 どんなに知性を高めても…どんなに生きる意欲を重ねても…言の葉ひとつですべては無に帰する。 だから、輪廻の先があるのなら…次は己の未来を信じて生きていける生き物に生まれたい。 まったく、愚痴っぽい話ですよね…最後の最後だというのに気がきいた言葉をかけてやれなくて。 でも、あなたが僕のもとに来なくて良かった。 最後の思い出として『人間』でなくなった僕の姿など眼に焼きつけるのは悲しすぎる。 だから、僕は満たされています…愛してます…僕の最愛の人。 さようなら。
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