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「前から思っててんけど、あんた、なんかあったん?」
ある日の昼休みのカフェテリアで、綾ちゃんがわたしを心配そうに覗き込んだ。
普通に振舞っていたつもりだったのに、鋭い綾ちゃんは気づいていた。
わたしは、ジローのことを話そうと口を開いた。
「……うちのアパート動物禁止なんだけどね、その、秘密で飼ってたネコが家出しちゃったんだ」
「……そうなんや」
綾ちゃんはそれっきり、何も聞かなかった。
綾ちゃんを信じていないんじゃない。
ジローのことを話したら、わたしはきっと、泣き崩れてしまう。
それが怖かったのだ。
綾ちゃんはわたしが嘘をついていると気づいていて、何も言わないでいてくれる。
一見派手で関西弁で、夢中になると早口になる綾ちゃんは、人から誤解されやすいけれど実は誰よりも優しいのだ。
「今週末、映画に行かん?」
「映画?」
「そう! ミニシアター系で面白そうなのやってるんよ。めっちゃへんてこな宇宙人がな、宇宙船に乗って旅してたらその宇宙船が故障して、地球に不時着する話。監督が体験した実話を元にしてるんやて。ほら、ウチ、そういうんが見えるから、興味あってん」
綾ちゃんが鼻息荒く語る姿にちょっと元気が出てきて「面白そうだね」とわたしもうなずいた。
そのわたしの顔を見て、綾ちゃんの表情がぱあっと明るくなる。
「やろ? しかもな、その宇宙人の名前がジローなんよ。宇宙人がジローて、日本人か! て、ネット見ながら一人ツッコミしたわ」
ズキっと、胸が強く痛んだ。
「ごめん、綾ちゃん。実は……家出したネコにジローって名づけてて。だから、わたし……」
「え? そやったんや。ウチこそごめん! 映画は無し、無し」
綾ちゃんが両手を合わせる。
謝らなければならないのはわたしの方なのに。
「本当に、ごめんね」
綾ちゃんは「売店でスイーツ買わん?」と優しく笑った。
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