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冬が過ぎ、桜が咲いて、また、つゆの季節が訪れた。
わたしは水色の傘を差して、つんと松の葉が雨に香る松林を歩いていた。
肉じゃがに必要な食材の入ったビニール袋をぶら下げて「No.3」の標識の前で立ち止まる。
あの日のずぶぬれのジローが、にぃと笑う。思わず手を伸ばすと、それは湿った雨に溶けていった。
あれは、ジローは、わたしの夢だったのかもしれない。
そんな気さえしてくるほど、月日は確実に過ぎていく。
しっとり濡れる林にジローの残像を置き去りにして、わたしは歩き始めた。
セミがワンワン鳴いた。
カナカナカナとひぐらしが鳴いて、それがこおろぎへと代わる。
もうすぐ新米の季節。
去年、ジローが家出する前に買い込んだ新米あきたこまちは、半分以上残ったまま古米になってしまったな。
冷凍していたご飯をレンジで温めながら、そんなことを思っていた。
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