第1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「誰か助けて!」 ふと三年の先輩に呼び止められ、文芸部の一室に軟禁されてしまった。目の前にいるのは三年生の部長のみ。つまり二人きりであり、ただの部活の勧誘かと思っていたが、なんとなく漂う雰囲気が、やばい、逃げなくちゃと本能的に感じ始めていた。 「私、高校生になったら、後輩にお姉さまと呼ばれたかったの」 「はぁ・・・」 「本当はカトリック系のお嬢様系の女子高に行きたかったんだけど、うちは平凡なサラリーマン家庭で、とても、そういうところに行ける余裕なくて、家から通える公立のここにしか来れなかったの」 「で、それと私とどういう関係が」 「あなたとてもかわいいから、うちの部に入部して私のことお姉さまと呼んでほしいの」 「はぁ~」 「うちの部は基本オタクの集まりだから、普段の部活はお茶やお菓子を食いながらラノベや漫画を読むだけ。たまに郷土史をまとめて図書館に寄贈したり保育園や老人ホームへ手作り紙芝居などボランティアで慰問に行くぐらいだから楽な部活よ」 「え、でも、私オタクじゃないですし・・・」 「これ、うちの部で定期的に買ってる漫画雑誌なんだけど、これが読み放題よ」 部長は先生たちに見つからないようにロッカーに隠してあった雑誌を、どんと目の前に置いた。確かに、今週発売された最新号ばかりだ。少女漫画、少年漫画、分厚い月刊誌など、そろっている。 「うっ」 高校生のお小遣いは限られている。最近はコンビニで立ち読みしずらくなっているので、部活でのんびり読めるのならと頭の中で損得勘定が働く。 「あの、お姉さまと呼ぶだけですよね。部長、そっちの趣味は」 目の前の部長は結構背が高く、キリッとした美人で、そういう趣味がありそうな雰囲気だった。 「ま、どちらかというと腐女子でショタだけど、ユリじゃないわ。ただ、かわいい後輩に慕われたいだけ」 「・・・」 「本当よ、じゃ、ちょっと待ってて」 部長は携帯を取り出し 「早く部室に来なさい。あんた新一年生でしょ」 「確かにうちの部活はさぼり自由だけど、今日は急用、即来なさい」 命令口調で相手に一方的に伝えて携帯を切る。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加