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《田中純一郎4》
図書館に着くなり、花巻先生は窓辺に腰掛け、少しはにかんでこう言ってきた。
「さっき、きっと面白いですよ、なんて言っちゃいましたけど、本当のところはこの面白さは私にはわからないんです。」
何を言ってるのかよくわからない。仮に言ってることが本当だとして、わからないものをどうして面白いと言えるのだろうか。
「そりゃあ、不思議そうな顔にもなりますよね。私が同じことを言われても、きっと同じような顔になると思います。…そうですね、では、一つ質問です。この部屋に、私たち以外に人はいますか?」
そう言われて初めて辺りを見回す。すると、一人だけ、生徒と思しき男子が目に入った。なにやら随分と考え込んでいるようで、俺たちに気付く様子はない。
「一人だけいますね。あっちの本棚のあたりに。」
「ええ。実は彼、幽霊なんです。」
またまたよくわからない。今日はエイプリルフールではない。ましてや本当のことなわけがない。
「足が浮いてたりしませんか。」
「しません。」
「体が透けてたり。」
「しません。」
こんな冗談を言うために俺をここに呼び出したんだろうか、この女は。だとしたら随分と性質が悪い。
「じゃあ…私の足、透けてたりしません?」
「透けてるわけが…え?」
透けていた。足があるはずの部分が透けて、奥の壁がみえる。花巻先生は悪戯っぽく微笑んで、こう続けた。
「私も似たようなものなんです。だから、わかるんです。彼は幽霊です。」
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