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《御船早緒.004》
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神奈子が美姫を抱えて図書室を後にしてからの早緒は気が気ではなかった。何せ、久しく放棄していた思考というものをしなければいけないのだから。
美姫が倒れた原因に、彼女を抱えて行ったもう一人の女子生徒のこと。――そしてあの騒ぎのとき、扉越しに微かに感じた人の気配。
その中から、早緒はまずは美姫が倒れた原因を考えることにする。恐らくはこの後、あの少女に散々問い詰められることになるだろうと考えたからだ。
「何が原因だったんだろ……」
早緒は彼なりに原因を考えてみようと先ほどの流れを思い出す。
「……思い当たることと言えば、やっぱり僕が白川さんを支えたこと、かなあ……」
そうして早緒が辿り着いた一つの考えは、男性恐怖症、だった。これはもちろん、霊である早緒を男と定義した場合に限るが。
「だとしたら、知らなかったとは言え僕のせいだよね……謝りに行きたいけど、僕はここから出られないし、そもそもまた会ってくれるのかも分からないけれど……」
改めて、自分が人と関わっていくのには極めて不向きであるということを、ある種別の方向から思い知らされる。
「それに白川さんが倒れた時、誰かが扉の前にいた……気がするんだけど。僕の気のせいだったのかなあ」
しかしこればかりはもう確認のしようがない。
諦めて別のことを考えようと思った矢先、勢いよく扉が開かれた。
「いるか! 幽霊! ……っと、あんまり騒ぐと先生たちに見つかっちまうな」
「あなたは、さっきの……」
「ん? ああそっか、名乗ってなかったっけ。朝宮神奈子だ、神奈子でいい。んで、とりあえず時間がないわけで……さっきのこと、きっちり説明してもらえるか?」
神奈子は今度は後ろでそっと扉を閉めると、そのまま腕を組んで扉に寄り掛かる。
その一連の動作全てが、早緒には“らしく”映った。
「本当に、何もわからないんです……よろけた白河さんを支えようと思って手を伸ばしたら、悲鳴を上げて、そのまま気絶してしまって……もしかしたら、人に触られるのが苦手なのかもって考えたりはしたんですけど」
早緒は彼女の顔を真っ直ぐに見ることができず、思わず俯きながら独り言のように、消え入りそうな声で呟いた。
「白河先輩が人に触れられるのが苦手、ねえ……そんな噂、聞いたことないけどな」
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