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《福弥爾郎・4》
翌日、朝
俺の、福弥爾郎の朝は穏やかなものだと思う。
いつも通りの時間に起床し、いつも通りの時間に登校する。いつも通りバスの中で微睡み終着のバス停、つまり古閑高校前で降りた。なだらかで長い坂道を歩いて登り(この時間だけはあまり好きではない)校舎に入る。階段を2階まで登り廊下にすぐ差し掛かった2-Bと書かれた教室に入った。廊下側から2列目、前から5番目の席が俺の席である。
席に座ると時刻はまだ8時15分、ホームルームまでまだ20分もあった。いつも通りだった。
あまり他人に話したことはないが、俺はこの時間が好きだ。新作の小説を読み進めるか、スマホでSNSを覗くか、はたまた机に突っ伏して寝るか、そんな自分のちょっとした自由時間は授業で縛られる毎日の密かなオアシスだ。
(さて、今日は寝るか。眠いわけではないが…。)
「あっ、あの!!すいません!福弥爾郎さんってあなたですか?」
机に突っ伏す直前の俺に後ろから女性の声が聴こえた。振り向くと髪を肩の辺りまで伸ばした茶髪の女子生徒がいた。胸のリボンを見ると同級生のようだ。
「はい。俺が福弥爾郎です。何か用ですか?」
「あ、あの、探偵部の依頼なんですが…。」
依頼。頭の中がスッと切り替わる。朝のホームルーム前にこのように依頼が来ることはあまり無い。珍しく思いながら眼鏡を直す。
「えぇ、いいですよ。探し物ですか?」
「はい…。実は昨日ヘアピンを落としちゃって…。何処で落としたか検討がつかないのでお願いしに来たんです。」
「ヘアピンの特徴は?」
「えっと、ちょっと大きめので、先に星がついてて、水色で…。」
「分かりました。次に昨日のあなたの行動の流れを大体でいいので教えてくれませんか?」
「分かりました。朝、登校した時はまだ付けてました…。2時間目は………」
こんな感じで質問は進んでいく。探偵部の仕事はまずこの質問が大事だ。あまり意味はなさないが。
「……では最後に、クラスと名前を。」
「あっ、竹中 志織(たけなか しおり)です。2-Dの。」
「ありがとうございます。では、放課後に探偵部部室に来てください。報告はそこで。」
依頼の確認をした後、彼女…竹中志織はクラスから出ていった。
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