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《朝宮神奈子・4》
校舎に乗り込むと、同時に足音がして、身を竦ませて空き教室に逃げ込む。教頭先生だ。まずい、と思いつつ、早く図書室に向かいたい気持ちが朝宮を急かす。過ぎ去ってくのと同時に、図書室に入った。
「いるか! 幽霊! ……っと、あんまり騒ぐと先生たちに見つかっちまうな」
さっきと同じ場所にたたずむ、幽霊を朝宮は捉えた。相変わらず浮かぶ本が危なっかしいな、と朝宮は思った。さっきは、気にする暇もなかったが、古びた独特の匂いがした。
「あなたは、さっきの……」
儚げな揺れる瞳と目が合う。どうも寂しげな感じだ。
「ん? ああそっか、名乗ってなかったっけ。朝宮神奈子だ、神奈子でいい。んで、とりあえず時間がないわけで……さっきのこと、きっちり説明してもらえるか?」
朝宮は手を伸ばし逆手でそっと扉を閉めると、そのまま腕を組んで扉に寄り掛かる。
男子生徒、幽霊は、少し間をおいて話し始めた。
「本当に、何もわからないんです……よろけた白河さんを支えようと思って手を伸ばしたら、悲鳴を上げて、そのまま気絶してしまって……もしかしたら、人に触られるのが苦手なのかもって考えたりはしたんですけど」
下を向いたまま話す声を聞き取りながら、朝宮は白河の情報を巡らせた。手が届くはずもない存在だ。そもそも、上の学年なのだから。
「白河先輩が人に触れられるのが苦手、ねえ……そんな噂、聞いたことないけどな」
そう朝宮が言った次の瞬間、幽霊と目が合う。朝宮は、内心驚いた、先ほどまでの寂しげな目とは反対の決意の瞳。そんな顔を見てすこし戸惑う。
「あの、神奈子さん? 一つだけ、お願いがあるんですけど」
朝宮は首をかしげ、相手を見つめた。
「お願い? ……まあ。叶えられるかは分からねえが、とりあえず言ってみな」
「白川さんに謝りたいんです」
朝宮は思わず、ふきそうになった。何を真剣に言い出すやら……と。だが、それが相手の個性だと朝宮は感じ取っていた。そして、本気で、真剣だという事も。
「いや幽霊、あのな? 謝るっつったって、まだお前のせいだって決まったわけじゃないんだぞ?」
「そうですけど……本当は、そうだったらいいんですけど、もしも僕のせいだとしたら、このままなんて嫌……なんです。」
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