5人が本棚に入れています
本棚に追加
その声に、惨劇の中心にいた影がユラリと立ち上がる。
影は、女だった。
鮮血に染まる夜風に見事な黒髪が翻る。
その下にある容貌は天女のように美しい。
豪奢な青色の衣を翻して立つ女は、高級女郎もかくやという美姫だった。
裾を割ってのぞく白い太ももも、肩口や袖元からのぞく肌も、震えがくるほどなまめかしい。
だがその両手に手挟まれた二振りの血刀が、色気に釣られて群がろうとする男の性を牽制している。
「確か名は……青藍、だったか」
その声に呼ばれたかのように、閉じられていた女の瞼がフワリと開いた。
その色を見て、番兵はまたヒッと悲鳴を上げる。
「返せ……」
真夏の夜を彩る蛍のような。
月明かりを吸い込んだかのような。
女の瞳はそんなモノを思わせる、怪しげな光を纏う青色だった。
最初のコメントを投稿しよう!