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ザリッと、女が足を通した三枚歯の下駄が地を食む。
風鈴を思わせる声音に激情をにじませた女は、悠然と立つ城主へ刃を向けた。
「主様(ぬしさま)を返せ……っ!!」
カランッという音を残して女の姿がかき消える。
城主の危難を察した他の番兵が次々と城主をかばう位置へ動くが、そのすべてが紙切れか糸屑を払うかのように屠られていく。
「一騎当千、その戦力は一国に値するという噂、本当だったか」
城主はその様を見ながらも、悠然とした構えのまま羽織を脱ぎ捨てた。
城主が刀を抜く間を見計らったかのように、女が城主の前へ滑り込む。
「秋篠寛隆(ひろたか)は死んだ。
だというのにお前はなぜ、戦い続けようとする」
ガキンッと刃と刃がかち合う音が響き渡る。
この場に立っている生者はもはや、門前に腰を抜かして座り込んだ新米番兵と、女と相対する城主、そいて女自身しか残されていない。
生者よりも死者が場を占める中、城主の問いは朗々と響いた。
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