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「ぬ…し………様……」
女の指先が必死にかんざしを握る。
その瞬間、白皙の美貌を一粒、真珠のような涙が転がり落ちた。
その雫に誘われたかのように、女の体からあふれ出た青い光の粒が宙を舞う。
『戦うためだけに、人同士の蠱毒で創られた存在でな。
代々秋篠家は、あれを使役することで強大な軍事力を得ていた。
だがもうそれも、私の代で終わりだ』
その景色の中に、城主は最後まで飄々としていた男の姿を思い出していた。
秋篠家最後の当主となった、彼女の主のことを。
『私はあれのことを、一人の男としての立場から、好いてしまったからな』
曰く、その髪が美しい。
あれほど美しい黒髪の持ち主は三国を巡っても見つかるまい。
肌の白さは新雪よりも美しく清らかで、容貌は天女さえ己を恥じて顔を覆ってしまうほど。
だが何よりも美しいのは青藍の瞳。
見ていると吸い込まれてしまいそうになる不思議な色合いの瞳は、あれの心を表したかのように澄んでいて、真っ直ぐで。
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