一限目演技指導

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一限目演技指導

チャイムの音が鳴る。 学院の中でも最もヤバイ森先生の授業が始まる。 周りは小さな声で話している。 30人のクラスでは1回の授業で自分の順番が当たらないことが多い。 今日が自分の番ではない生徒は余裕があるが、そうでない生徒は人生の山場を迎えることになる。 森先生が話す。 「はい、それでは、野田君、演じてみて」 そして、人生の山場を迎える僕が答える。 「はい!」 僕は深呼吸と咳払いをして準備をする。 森先生がBGMのスイッチを入れる。 演技スタートの合図だ。戦闘シーンの音楽が流れる。 僕は今できる渾身の演技をする。 「くっ!こんなことになるなんて...。俺は、まだ死ねないんだ! 生きて...あいつのところに行かないと..約束したんだ..。だから...邪魔をするな~!!」 森先生が静かに話し始める。 「はい...。う~ん、野田くん..」 「はい!」 地獄が始まった。 先生のワンターンキルだ。 「今、主人公が置かれてる状況は、どんな状況?」 「はい!独りで敵に囲まれて、動けない状態です」 「うん。どの程度動けない?」 「えっ..あの..足を怪我してます」 「うん。それじゃあ、どのくらいの敵に囲まれてる?」 「さ、30人ぐらいです」 「うん。どのくらいの距離に敵はいる?」 「え、よ、4メートルくらいです」 「うん。だれに向けてセリフを言った?」 「敵の..全員です」 「うん。じゃあ、演技が違うよね?まず、苦しがってないし。絶望感の中にも希望を見出して戦おうとしているわけだし。そもそも、取り囲んで4メートルはなれた30人の敵に対しての距離感でもない。つまり、演技がぶれている。だから、気持ちがちぐはぐに切れて、セリフのテンションが一定しない。それじゃあ、感動はしないよね?」 「はい。うぅ...」 僕、つまり声優候補生野田は死んだ。 教室の中ではささやき声が漏れる。 「うわ~先生厳しいな~」 「自分の番が怖い...」 「まじかよ。そこまで考えてないわ」 他の生徒も引いているのが僕にも伝わる。
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