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歩き慣れた道を歩く。
特別なことは何もない。
いや、あるといえばある。
ただそれは、定期的に繰り返される出来事のひとつ。
「以後なんなりと楽市楽座……人粉々だよ鉄砲で……長篠合戦……」
それはテスト。期末試験。
語呂合わせを口にしながら歩く制服姿の女子高生、山辺椿はあまり前が見えていなかった。
前方から車のエンジン音が聞こえ、椿はロクに周りを見もせず道の端に避けながら語呂合わせを続ける。
「イチゴパンツの明智光秀……本能寺の……変ッ!?」
突如、椿の体が真っ直ぐ下に落ちる感覚がして叫ぶ。
ほぼ同時に、ふわりと何かが椿の体を抱きしめ、落下は途中で止まった。
ん……?
見上げた椿の視界に入ったのは、燃えるように赤い瞳。
まるでこの世のものでないような。
瞳は驚いたようにじっと椿を見つめている。
椿もまた、その瞳から目が逸らせない。
「……メ」
呟く声が聞こえた。
あまりに微かで、なんと言ったのか椿にはわからない。
だが、その声で椿は現実に引き戻される。
「えっと……」
どう反応していいかわからず戸惑う椿の足が、そっとコンクリートの上に降ろされた。
どうやら抱きしめられていただけでなく、抱き上げられてしまっていたらしい。
椿は自分を抱き上げていた人物を見た。
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