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漆黒の髪に整った顔立ちの少年。
椿とそう年は変わらないように見えるが制服を着ていない。
少しだけ背は高いが、決して筋肉質には見えないのに、軽々と椿を抱き上げた。
真っ直ぐにこちらを見るその瞳は漆黒――
「……あれ?」
先ほど赤く見えたのは気のせいだったのだろうか。
「あの……」
「前見て歩け」
呆れたように言いながら、少年は道の端に視線を落とす。
椿も見ると、側溝のコンクリートで出来た蓋が割れていた。
「ああ、またか……」
納得したように椿はため息をつく。
椿はそこに落ちかけたのだ。
そして、それを助けてくれたのはこの少年。
「また?」
「あ、なんでもないです。ありがとうございました」
眉をひそめた少年に、椿はぺこりと頭を下げる。
顔を上げると、少年の視線が今度は椿の鞄に向かう。
「礼ならミケを寄越せ」
「ミケ……?」
しばし考え、すぐに思い当たる。
「ああ、御饌(みけ)ですね。……って、そんなの持ってませんよ!」
「しらばっくれんな。そこに入ってんだろ」
「鞄に入ってるのはただのお弁当です」
「それでいい。寄越せ」
「ダメですよ。私のお昼ご飯なんですから」
後手にさっと鞄を隠すが、少年はずいっと椿に迫った。
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